白い部屋の中 サンプル

SAMPLE

「んっ……! ぁっ……!」
ぐちゅぐちゅと、あらぬところからあらぬ音がする。その音に頭を振れば、音の出処である後孔に埋め込まれた指がさらに強く内壁を擦った。思わず中を締め付けると、骨ばった指の形とその熱さをまざまざと感じてしまい、羞恥に顔が熱くなる。
ソハヤを押し倒した大典太は性急だった。少し乱暴な手付きで互いの防具を外してベッドの外に投げ捨てると、下着ごとスラックスを膝まで脱がされた。中途半端に脱がされた状態では身動きも取れないため、タンクトップの裾から入り込んできた大典太の手が肌を撫でる感覚に気を取られながらも、自力でスラックスを脱ぎ切る。
腹のあたりを撫でていた手は、目的を持って胸に伸びた。指の平が突起を見つけ、ぐりぐりと押されたり摘まれたりと、まるでおもちゃで遊ぶように弄られる。同時に足を開かされ、中心に冷たくどろりとした液体が垂らされた。驚いて大典太を見れば、媚薬が入っていた瓶に似たものを持ち、ソハヤの中心を濡らしていた。液体は下生えを濡らし、肌を伝って臀部にまで落ちてくる。それなに、と問いかける前に、後孔の入口に液体が塗り拡げられた。
身体を開かれるのは初めてなので、緊張と未知への恐怖に身体がすくむ。僅かにこわばった身体に気づいた大典太が顔を上げ、視線が絡み合った。大典太の顔を見て、少しだけ力が抜ける。
兄弟、と熱を孕む声が落ちてくる。大典太が話すたび、呼吸をするたびに甘い匂いが強くなり、頭がくらくらとする。慣らすぞとの言葉と共に指が埋め込まれた。
液体を纏って入り込んでくる指はごつごつとしていて、中で出し入れされても苦しさや違和感の方が強かった。だが何度か中を擦られていると妙な気分になってくる。そしてとある一点を指の平が押しつぶしたとき、身体の中心を衝撃が走る。ひぁ、と高い声が出てとっさに口をふさぐが、大典太にははっきりと聞こえていたらしい。めったに動かない大典太の口角が上がっていくのを見て、ソハヤは嫌な気配に背を戦慄かせた。
「きょ、だい、待、」
「ここか」
「アッ!? ひっ、ま、待て……っあ!!」
指の動きが代わり、ソハヤが反応したところを重点的に攻められる。いつもの恐る恐るといった手付きからは考えられないほど激しく内壁を押し拓き、慣らしていく。
後孔を慣らしながらも、胸への愛撫も止まらない。初めはくすぐったいだけだったそれも、少しすると妙な感覚を生む。じんわりと生まれた感覚は熱となり、指の平で弄られるたびに背をぞくぞくとしたものが駆け抜けていく。脳まで駆け上がったそれはやがて全身に広がり、腹の奥をじんと痺れさせた。
身体を支配し始めたその感覚をなんと呼ぶか、想像はついた。ついたが、ここまで早くそれを感じられるようになるのだろうか、と熱を帯びていく思考の裏で冷静な部分が疑問を持つ。しかしその疑問も、すぐに四散してしまう。胸を弄るものが手から口に変わり、後孔には埋め込まれた指が増え、与えられる感覚が強くなる。
「はっ、ん、ふ……んぁ!」
「……気持ちいい、か、きょうだい」
苦しい息の合間に大典太が問う。
気持ちいい。
脳に届いたその言葉に、身体が震えた。全身を駆け巡るこの熱は、大典太に与えられる感覚は、そう、快感だ。気づかないふりをしていた答えを与えられ、結びついた言葉に腹の奥に溜まっていた熱が暴れだす。
一度も触られていないい己が自身へと熱が集まっていき、だらだらと先走りを垂れ流しながら、開放を待ちわびるように固く張り詰めていく。
「ぅあっ……、ああッ!」
後孔に埋め込まれた大典太の指の動きが激しくなる。いつの間にか足されていた液体が、ぐちゅぐちゅと酷い音を立てて耳を犯す。指は気がつけば三本も入れられており、奥底に眠る快感を引き出すように後孔の中を大典太の指が行き来する。それぞれがばらばらに動いたり、三本で良いところを強く擦られたり、その度にソハヤは嬌声とも取れる声を上げてしまう。
「兄弟」
胸の上にわだかまっていた、着たままのタンクトップをたくし上げられて鎖骨に口付けられた。そこから甘やかな痺れが広がっていく。
後孔への愛撫とは反対に、上半身への愛撫は優しい。まるで苦しさを紛らわすかのような、辛さを感じさせたくないと言うかのような優しさ。だからこそ余計に、後孔を押し拓く指の動きが性急に感じる。その指の動きも、傷をつけたり無理に押し拓くようなものではないのだろうことも、大典太の性格を考えればなんとなく予想はつく。
傷つけたくはないが、早く事を進めたい。そんな考えが表れているようだ。
――そんなに、早く帰りたいのか。戻りたいのか。
快感でぼうとする頭に、そんな言葉が浮かんだ。それは熱に浮かされる身体に冷や水を落とす。
この部屋から早く出たいのは分かる。こんな所には誰だって長くいたくはないだろう。だが、一緒にいるのは己だ。唯一の兄弟であるソハヤノツルキだ。それでも、早く帰りたいのか。
――己といるのが嫌なのだろうか。
「ソハヤ」
「ひっ、あっ!!」
指が入り切る深さまで埋め込まれた指が、ぐ、と強く内壁をひっかく。強い快感に、思考に浸っていた意識が強制的に引き戻された。

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