むかしがたり サンプル

SAMPLE

薄暗い明かりの中で、三日月は組み敷いた鶴丸から視線を外すこと無く、その身体を丁寧に開いていく。部屋を支配するのは、今や熱だけだ。
「っ、く、」
 指を一本飲み込む鶴丸の後孔は固く、けれど三日月は指の付け根までを飲み込ませるように、根気よく解していく。時折漏れる声は熱こそ孕んでいるものの、未だ苦しそうだった。
「つる、」
 呼びながら一度指を抜き去り、今度は二本の指に油をまとわりつかせると、また後孔の入り口へと指の腹を押し付けた。指の腹が後孔に当たる感覚に怯えたか鶴丸の足が揺れ、入り口に力が入った。
「つる」
 揺れる瞳に誘われるように上体を倒し、息を逃すために開いた口からちろちろと覗く舌を追いかけて、その口を塞ぐ。存外に柔らかい唇は軽く口をつけただけで熱を持ち、緩く開かれた隙間から舌を滑り込ませれば、捕まえた舌が酷く熱い。互いの唾液を混ぜるように舌を絡ませ、鶴丸が口吸いに気を取られた隙に、緩んだ後孔へと指先を埋めた。
「ん、」
 指先で内壁を押し広げ、指の平で縁を開き、奥へ奥へと埋めていく。中は、口腔と同じ程に熱い。拒むように後孔が閉まるが、指にまとわりつかせた油と根気よく解していたおかげで、半分ほどまでは楽に埋め込むことが出来た。そこから先はまだ固いが、先ほど一度、指の付け根まで埋め込んでいたので、十分に開いていけるだろう。
 ず、と指を僅かに引き抜くと、口の中で、あ、と小さな声が漏れた。その声を吸い上げると同時に指をまた少し埋め、くの字に曲げる。初めて指を入れた時は間接を動かすことすらままならなかったが、少しずつ広がってきているようだ。指の腹を内壁に押しけて小刻みに抜き差しをすると、その動きに合わせて触れ合わせた舌がぴくりと動く。
 んん、と苦しげなうめき声が聞こえて、三日月は口を離す。ぷは、と色気も何もない声が漏れるが、濡れた赤い唇と三日月と鶴丸の間に引かれた透明な糸が、酷く艶めいていた。
「っいき、苦しいっ、だろっ……」
 涙目で訴えられるが、上気した頬と相まって三日月の欲を誘う。苦しそうに胸を上下させて息を整える鶴丸にすまぬなと頬をなでて機嫌を取りながらも、三日月は指の動きを止めようとはしない。
「っ、」
 鶴丸が感じているのは、まだ違和感の方が強いのだろう。眉を寄せて、三日月の指の動きに耐えている。けれど慣らさねば自分がきついだけだと判っているのか、健気にも体の力を抜こうとする。
 押し倒した時こそ鶴丸は酷く慌てていたが、寂しかったからなと言えば責められているとでも思ったのか、自分から床へと背をつけた。まぁいいかと諦めたように聞こえた声は、しかし、諦めたわけではなくて自分の置かれた状況を受け入れただけだったのだろう。
 そうして鶴丸は、大人しく三日月に身体を開かれている。
「く、っ、」
 何度も指を抜き差ししていると、徐々に動きが楽になってくる。そろそろいいかと間接ひとつ分まで指を抜き、二本目の指を添えて再び中へと潜り込ませる。入口を開くときこそ、ん、と苦しげな声が漏れたが、指一本で丹念に開いていた身体は、二本目の指をさほど拒むこと無く迎え入れた。違和感が強くなったか眉間の皺が深くなり、そこへと口づけを落としながら三日月は痛むことのないように時間をかけて奥まで進める。
「鶴、大丈夫か」
 呼びかけに向けられた顔は、大丈夫だと言うように緩く縦に振られる。それにほっとして、後孔が二本の指に馴染むまで抜き差しを繰り返す。そうしてまた間接が動くほどまでほぐれたのを確認すると、また新しく油を足して、今度は三本を埋め込んだ。
 流石に指三本はきついのか、鶴丸が息を詰める。宥めるように髪をなで、押し込んでいく。三本の指をばらばらに動かせるようになった頃には、鶴丸の息もだいぶ上がっていた。
「あっ、ひっ……!?」
 指の腹を押し付けて内壁を広げ、油を塗りこんでいると、ある一点で鶴丸の身体が大きく跳ねた。漏れでた高い声に三日月が驚いて動きを止めると、鶴丸も何が起こったのか判らず三日月を見つめる。
「今の」
 なんだ、と鶴丸が言う前に、三日月は鶴丸が大きく反応した場所を強く擦る。
「んんっ……!」
 痛みを感じている声ではなかった。むしろ、気持ちの良さそうな、そんな声だ。
「ちょ、みか、っ、……ぁ!」
 ここが鶴丸のいいところかと、初めて返ってきた気持ち良さ気な反応に気を良くして、戸惑う鶴丸をよそに三日月は三本の指でそこを重点的に擦り上げる。指の腹で強く押し、切りそろえてある爪でひっかき、二本の指で挟むようにして抓る。
 そこからくる感覚に耐えられないのか、鶴丸は三日月の指がそこに触れるたび、甘く熱を孕む声を上げた。抑えようと手のひらで口を押さえるが、その程度では完全には抑えきれないようで、押し殺した声が部屋に響く。
 くちづけをした時の比ではないくらい身体が赤く、感じてくれているのがよく判る。鶴丸の陰茎も、初めに一度気をやってから触れていないが、ゆるく立ち上がりかけていた。その姿に胸の奥に歓喜が沸き起こり、高揚感が生まれる。腹の奥で燻ぶる熱と共に腰に溜まっていくのを感じながら、三日月は己によって変わっていく鶴丸を愛おしく見下ろす。
 根本までを埋め込んだ指をぐるりと回してみるが、拒まれる感覚はない。後孔の縁も広がって柔らかく、もう大丈夫だろうかと三日月は指を引き抜いた。油がとろりと垂れ、敷布代わりに敷いている鶴丸の寝間着を濡らす。
「は、……っ、」
 指が抜けたことで脱力した鶴丸が息を整えている間に、三日月はすっかりと形を変えた己が陰茎に油をまとわりつかせる。身体を突き動かすほどの欲を持ったのは顕現してから初めてのことで、未だ己が感情にも慣れぬというのにその欲を制御できるわけもなかった。
「……鶴」
 足を大きく開かせて、その間に身体を滑り込ませた。あ、と声があがる。
「鶴、いいか」
 入り口に陰茎の先端をぴたりとつければ、鶴丸の身体が微かに震え、それから熱に浮かされた目で三日月を見つめた。
「鶴」
 内部へと入る許しを乞う三日月に、鶴丸はにぃと口角を上げて口元に弧を描く。
「なぁ、三日月」
 荒い息を吐き、熱を孕む目で見つめ、けれどしっかりとした声で鶴丸は問う。
「君は、ちゃんと、俺を見てくれているか」

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