むかしがたり サンプル
SAMPLE
「みかづきにいさま!」
白い鶴が庭の木の下から三日月を呼ぶ。縁側を歩いていた三日月は、元気なその小さな付喪神を微笑ましく思いながら、縁側から庭へと降り立った。ゆっくりと歩く三日月がもどかしかったのか、鶴は自分から三日月の元へと来て、その手を引いた。
「今日はなにをしてあそぶんだ?」
「そうさなぁ……鶴は何をして遊びたい?」
「おれは、みかづきにいさまとならなんでも楽しい」
本当にそう思っているのが伝わってくるように、鶴は満面の笑みを浮かべる。その楽しいの裏側にある好意が嬉しくて、それをを隠しきれていない鶴が酷く愛おしい。
「なぁ、鶴」
「なんだ?」
「鶴は、俺のことが好きか?」
聞かずとも判ることを、あえて聞く。鶴ははたしてどんな風に答えてくれるのか、三日月はつい笑ってしまう口元を袖口で隠しながら、鶴の言葉を待った。
「うん、好きだ!」
待たずとも即答した鶴にやはり笑みを抑えられなくて、三日月は白い頭を優しく撫でる。鶴に聞かずとも、見たままで判っていた。鶴は全身で、三日月を好きだと訴える。
「にいさまは?」
「うん?」
「にいさまは、俺のこと、好きか?」
見上げてくる鶴の目には期待と信頼しか無く、三日月が自分のことを好きであると信じきった顔で、三日月の応えを待つ。
「そうだな」
三日月は、その小さな身体を抱き上げた。
「俺も鶴のことを、好いているぞ」